音楽制作をする際でも、好きな音楽を聴く際でも、できる限りスピーカーを使って聴いてください。今回は、ヘッドホンに比べてスピーカーを優先する理由を挙げていきます。
まず、スピーカーを使うと、2mixの右chと左chをそれぞれ右耳、左耳で聴くことができます。対して、ヘッドホンの場合は、右chは右耳、左chは左耳ということになります。両耳を使うことで音の到来方向を立体に捉えることができるため、2mixの立体感に対する感度がスピーカーで聴くほうが高まります。また、右耳と左耳の聴力がまったく一緒ということはないので、ヘッドホンで聴くと定位がはっきりしない人もいます。
人間が音の到来をどのように聞いているかを関数化した、頭部伝達関数というものがあります。これを使い、プラグインとして、ヘッドホンでもスピーカーでの聞こえを再現するものが昔から登場しています。ですが、頭部伝達関数というものは、人それぞれ違う固有のものであり、かつ現在でもプラグインで再現できていません(売ってはいます)。ですから、やはりスピーカーを使う以外の選択肢は現状ありません。
次に、スピーカーであれば、音の大きさを距離感で捉えることができます。対してヘッドホンでは音は耳のすぐ側でなりますから、距離感で捉えることはできません。人の感覚はいろいろな要因で変化するため、ヘッドホンを使うほうが音の大きさをはじめ、いろいろな要因を捉えにくいです。とりわけ、ミックスバランスはボリュームフェーダーとパンのみでクオリティの7~8割くらいを決定します。ですから、スピーカーを使うほうが音が見やすく、ミックスもしやすいわけです。
最後に、ヘッドホンでは小さく聞こえにくい音もはっきりと聞こえ、かつはっきりと大きすぎる音はそこまで大きくないように感じます。つまり、音のダイナミックレンジが狭いです。よく等ラウドネス曲線による音への感度の話がされますが、実は問題なのはこれだけではなく、一定量の音が耳に入ってくると、それに対して人体による音量の圧縮(コンプレッサーのような働き)が起きます。つまり、人間の耳は、大きい音が入ってくると、無限に線形で大きく聞こえていくのではなく、どこかで頭打ちして、音の大きさがはっきりつかめなくなります。この2つの問題により、ヘッドホンでミックスすると、音の距離感、立体感、はっきりさせる音、ぼやけさせる音、などの感覚がズレていきます。
例としては、スピーカーとヘッドホン、それぞれを使いバラエティでも見てみてください。小声で喋っている声はスピーカーならはっきりとは聞こえず、ヘッドホンならはっきりと聞こえるでしょう。また、観客の笑い声が起きる場所では、スピーカーならそこだけ必要以上に大きく聞こえ、ヘッドホンなら大きくなったことすら感じないかもしれません。もし、このような経験をしているなら、ヘッドホンでのリスニングが常態化していると思いますので、早急にスピーカーでのリスニングに切り替えたほうがいいです。
ちなみに、小型スピーカーを使い、100Hzくらいまではこちらでモニタリングし、それ以下の低音はヘッドホンでモニタリングするという人がいるかと思います。ですが、低音についても、ヘッドホンでは量感を正しく捉えることが難しいです。とくに50Hz以下は判断を誤りやすいので、サブウーファーを使うようにしたほうがいいのはこのためです。
おまけ。ヘッドホンやイヤホンで音楽を聴いていると、耳の消耗が早まります。人間は加齢とともに高音から聞こえにくくなっていきます。おそらくですが、ヘッドホンやイヤホンを使っている人は、使っていない人よりもこの進行が早まっています。また、ヘッドホン難聴という、もはや名前にすら使われている不名誉な病気があります。耳の有毛細胞を復活させる研究は進んでいますが、まだまだ我々が若いうちに実用化されるものではありません。ですから、有毛細胞が傷ついた場合は復活しないものとして、大事に音を聞くようにしてください。そういう観点からも、スピーカーを使うほうがよいわけです。