吸音、拡散、一次反射、フラッターエコー、定在波、このあたりについて理解していれば十分です。加えて、デッド・エンド ライブ・エンド型というコントロールルームの音場計画用語も知っておくとよいです。
昔から、コントロールルームの音場としてデッド・エンド ライブ・エンド型が望ましいことは言われてきました。最近は、イマーシブオーディオの制作も増えていることから、分配配置型のように均一な音場形成が増えています。特殊な例としては、全方位をデッドにし、リスナーの音声のみに残響をつけて返す音場の導入例もあります。
当アトリエのDIY防音ブースは2.5畳程度のサイズです。ルームサイズとしてはかなり狭いため、反射が極めて強いです。したがって、基本的に吸音を主体に音場調整をしていくことになります。拡散パネルは使いません。拡散パネルは、一般的には500~1000Hzくらいの音の集中を拡散するために使います。ですが、リスナーと拡散パネルも重要でして、拡散パネルに近すぎると拡散が悪くなり、聞こえも悪くなります。2.5畳では十分な距離がとれませんから、そもそも選択肢に入りません。また、基本的に拡散パネルを設置するのは、リスナーの背後の壁なのですが、2.5畳ではスピーカーからこの壁への距離がかなり近いため、吸音したほうが効果的です。デッド・エンド ライブ・エンド型的な言い方をすれば、「デッド・エンド ちょっとデッド・エンド型」という感じですね。
・スピーカーの後ろの壁
一面吸音材を貼ります。
・天井
スピーカーの後ろの壁との境から、リスナーの頭上にかけて吸音材を貼ります。リスナーの背後の天井は吸音材を貼らないほうが、空間が開けた感じに聞こえますので望ましいです。この吸音材は固定して動かすことはないので、合板とビスで端を固定するとよいです。
・リスナーの左右の壁
スピーカーの高さ、耳の高さを中心にして、一次反射を抑えるために吸音パネルを設置します。これはパネル状で作っておくと後から移動できて便利です。調整方法としては、鏡を壁に置き、その中にスピーカーが映る位置に吸音パネルを置きます。ここが一次反射する面ですね。注意点としては、スピーカーから近いため、左右のスピーカーが映る鏡の位置がそれぞれあります。したがって、それぞれをカバーする範囲に吸音パネルを置く必要があります。
・リスナーの後ろの壁
基本的に、吸音することは避けたいところです。なぜなら、この壁をライブ・エンドにしないと、かなり空間が詰まったように感じ、とても窮屈になります。ですが前述のように、この狭い防音ブースではこの壁の一次反射も抑える必要があります。ですから、左右の壁とあわせて、一次反射の位置のみに吸音パネルを置き、その他はできるだけ何もしないほうがいいです。あくまで、この狭い防音ブースでの話です。
・床
厚手のウレタン製のマットを一面に敷きます。
・部屋のコーナー
定在波対策として、ベーストラップを設置します。ベーストラップは、高さ方向に長く設置します。部屋の短辺方向、長辺方向の天井と床も部屋のコーナーではあるのですが、床に置くと邪魔ですし、天井に置くと圧迫感があります。また、天井の場合は落ちないように固定するのも大変です。したがって、部屋の四隅に、吸音材を床から天井まで積み上げる方針が現実的です。
以上で、定在波、リスナー位置の一次反射、フラッターエコーはある程度抑えられます。あとは吸音材の量により、残響の量を調整するだけです。
基本的には、48Kのロックウールを使います。厚さは50mmです。このあたりが一番使いやすいです。これより密度が低いものはふにゃふにゃで自立しません。防音ブースの中で、吸音材を動かさない位置、広範囲にわたる位置に積極的に使います。配置したい場所が決まれば、吸音材の隅に当て木をしてビス止めすれば、天井であっても落ちてくることはありません。そして、その後に不織布で覆えば、ロックウールの粉が落ちてくることもありません。
一次反射対策用に作る吸音パネルも、この48Kのロックウールを使います。通常、吸音パネルを作るときは木枠を作り、その中に吸音材を入れて、不織布を木枠に固定する方法を採ります。そして、木枠に紐を固定します。48Kと言えど、ロックウールは柔いですから、直接ロックウールに紐を固定することはできません。しかし、この方法で吸音パネルを制作すると、多少重くなってしまいます。
そこで今回は、48Kのロックウール自体を不織布で表裏覆いました。そして、不織布の端の布で針金を巻き込み、不織布の生地同士をタッカーで留めました。ロックウールは軽いので、この方法でも針金がとれることはありません。この方法ですと、かなり軽い吸音パネルが作成できます。この吸音パネルはリスナーの左右の壁に配置しました。通常、リスナーと触れることはありません。
最後に、リスナーの後ろの壁に配置する用の吸音材として、ポリエチレンナフタレート素材の吸音材も使用しました。これは24K相当、厚さ50mmです。ロックウールよりは吸音性能は低いですが、むき出しのままで人の肌にふれても害がありません。リスナーの背後の壁は触れてしまうことが多々ありますので、余っていたこの素材を暫定的に使います。
部屋のコーナーに置くベーストラップは、300*300サイズのウレタンブロックを積み上げる方法が一番簡単です。DIY的に昔から言われているのは、抱き枕や布団、マットレスです。ですが、これらは固定するために突っ張り棒が必要です。まあ、防音室の壁にビス打ちしてもいいのですが、あまりやりたくないですよね。その点、ウレタンブロックは床から天井まで積み上げてぎゅっと押し込めば、天井と床との張力で倒れてくることはありません。しかも、300mmごとに区切られた素材ですから、どんな高さの天井にも数を増やして伸ばせば使えます(今回のDIY防音ブースの天井は1780程度です)。そして取り外しも簡単です。こんなにメリットがいっぱいのウレタンブロックですが、なかなか300*300以上のサイズが売っていないということと、ウレタンですから劣化が早いということがデメリットです。
余談です。よく、ウレタン吸音材はグラスウールやロックウールに比べて吸音効果が低いと言われます。実際に測定結果もそうなります。吸音材の吸音率を示すグラフはたいてい吸音材の25mm、50mm、100mmのデータが記載されています。100mmを超えるデータを見たことはありません。何が言いたいかと言うと、ウレタン素材であっても、厚さを300mmもとれば、吸音効果は高いということです。ちなみに、ウレタンは吸音効果の低いものと高いものがあります。わかりやすく言えば、吸音材に使われるようなふにゃふにゃのウレタンは吸音効果が高く、椅子やマットレスで使われるような硬いウレタンは吸音効果が低いです。製造方法で大きく異なっていますので注意が必要です。例えば、後者は独立気泡という構造かつ弾力が強くて、音をむしろ跳ね返してしまうわけです。
スピーカーの後ろの壁に48Kのロックウールを敷き詰めた状況です。48Kは単体で自立するほどの硬さがあります。上の隅だけ当て木をしてビス止めしています。そして、実際はここに不織布を上から貼っています。
スピーカーの後ろの壁の方向から、リスナーの頭上の位置まで、48Kロックウールを貼っています。画像を見ると、DIY防音ブースに開けた排気口の位置くらいまで貼っていますね。
リスナーの背後の壁の部分は、天井にロックウールを貼っていません。この部分を貼ると、天井方向がかなり圧迫されたように感じます。ですので、ロックウールを貼らない部分を少し設けてやることで、リスナーは背後の上のほうが開けているように感じられるようになります。
吸音パネルを設置しています。スピーカーとリスナーの耳の高さが中心です。これで左右のスピーカーからの一次反射の場所をカバーしています。
リスナーの背後の壁には現状ポリエチレンナフタレートの吸音材を立てかけています。今後もしかしたら壁がけにするかもれしれません。現状は吸音材の上の空間を広めに設けたいのでこんな感じにしています。
ちなみに、録音する際には、PCデスクの方向に向かって収録すると、デッドな録音ができます。ボイス収録やチャット、配信などで便利です。リスナーの後ろの壁の吸音材をどけて、この壁の方向にマイクを設置して壁に向かって音を収録すると、適度な響きが返ってきます。壁との距離の調整や吸音材の位置の調整は必要ですが、楽器の収録の際にわりと便利です。
さて、次に部屋のコーナーのベーストラップについてです。300*300のウレタンブロックを積み上げています。部屋の四隅はすべて配置してあります。ちなみに、これだけのベーストラップを部屋に配置しても過剰吸音にはなっていません。
サラウンドスピーカーの手前やリスナーの背後の上部に壁が見えているように、吸音材を配置していないむき出しの部分も多くあります。
基本的に、スピーカーの背後の壁と天井をデッドにし、左右の壁に吸音パネル、リスナーの背後の壁に吸音パネル、部屋の四隅にベーストラップ、これらを配置すればかなり実用的な音場になります。当アトリエで紹介したDIY防音ブースを使わなくても、これらの吸音材の設置方法は参考になると思います。
DIY防音ブースのように疑問に思う点は少ないと思いますが、なにか疑問等があれば、ちょっとしたことであれば無料でお答えしますので、お気軽にお問い合わせください。