2026年9月3日にSunoという音楽生成AIのプランが変更されます。この記事を執筆しているのは2026年8月30日なのですが、「音楽生成AIに仕事を奪われた」とするYoutube投稿がそこそこ再生回数を伸ばしており、コメント欄を見る限りでは勘違いをしている視聴者がたくさんいたため、この記事は「そんなことないよ。音楽業界において仕事がAIに奪われることは考えにくいよ」という視点からSunoについて少し考えてみようと思います。なお、該当動画は既に削除されています。
ちなみに、その発信者の方は、インスタレーションとかMAX/MSP、サウンドデザイン、メディアアート、フィールドレコーディングといった界隈の方みたいで、半分以上芸術家的なスタンスのお仕事をされていたみたいですから、この時代そういうお仕事は確実に減っているだろうなとは思います。これはAIどうこういう話でもないでしょうし、この点は発言を見送ります。
この記事で取り上げる内容は、現状の生成AIでできること、クライアントワークへの利用の話です。
この動画の前半は、自分で作ったデモ曲をSunoに取り込んで、リミックス(アレンジとして利用)したものです。
後半では簡単な鼻歌をうたい、それを元にSunoにアレンジしてもらいました。
9月3日以降は無料プランでは、生成した楽曲のダウンロードができなくなります。したがって、Proプラン(月額1500円)以上のプランに入らないと実質的な利用はできません。Proプランでは、生成楽曲の商用利用は可とされています。
今回の改定は利用制限に関するものであり、機能が良くなった悪くなったという話ではありません。
自分でデモ曲を作り取り込むと、結構いい感じに生っぽい表情のついたボーカルや演奏にしてくれます。尺も展開もデモ曲に合わせてくれますので、一聴するだけで短時間にいいものが出来たな感があります。一方、鼻歌をSuno上で録音してそれを基にして生成すると、かなりイメージの違うものが出来ますし、尺も展開も考えていたものとは異なって出力されます。ここはプロンプトの書き方のみせどころかもしれませんが、そんな時間を費やすくらいならデモ曲を作り込んだほうが生産的かなと思います。
さて、この状態で「なにかに使えるか?」と聞かれた場合、その利用用途を答えることは私にはできません。皆さんはどういった使い方を想定されるでしょうか?
もし、動画の前半で生成した曲から、「ギターだけ抜き出す」ような、各トラックのブラッシュアップができるような使い方があるとしたら、ぜひ試してみたいところでした。しかし、SunoのようなAIは各トラックの音を作ってから混ぜているわけではなく、1曲混ざった状態のものをちょっとずつ生成してつなげているような働き方をしているため、ステム利用とはいってもせいぜい、ボーカル、ドラム、ベース、その他、くらいの分け方しかできません。(私はSunoでは試していないですが、現在大体のAI生成やAI分離ではそうなっていますので、Sunoもおそらくそうだと思います。)
そして、仮にギターだけの音を分離できたとしても、MIX的な加工は既にされた状態ですし、実はAI生成特有のノイズがアウトプットにのっています。その状態では、元のデモ曲に入れるといったことは難しいです。例えば、パンニングのきれいな変更や、リバーブをかけたり減らしたりという変更は、ほぼ無理と思っていいです。
ちなみに、逆はいけます。「元のデモ曲にギターを追加して出力する」といったことは、Proプラン以上で使えるみたいです。Sunoを利用するワークフローとしては、「最終段にSuno出力を持ってくる」という使い方でなければ、その威力は発揮できない様子です。
このような現状のSunoが用意する機能では、音楽制作における利便性はかなり低いです。クライアントワークにおいては、基のステムデータが重要になるわけですが、Sunoから抜き出したとしても、上記の通り扱いにくいです。さらに、尺を変えてほしい、キーを変えてほしい、ここのフレーズをこう変えたい、みたいな需要には一切対応できません。人間の演奏でもまあ同じような話のように思えるかもしれませんが、例えばギターを部分的に弾き変えると音色は噛み合いません。シンセの音色なら元が打ち込みですから、音色が違うなどの話すら発生しません。いわゆる、作業における不可逆性の話ですね。これだけでクライアントワークに不適なことがわかります。よって、サンプラー的な使い方は厳しいのが現状です。
DTMの世界では、自動演奏してくれる音源があったり、音ネタとしてオーディオサンプルを使う文化があったりしますが、生成AIはその延長で同じようには使えません。音源のようにトラック化してありませんし、有料配布のオーディオサンプルみたいにきれいではないためです。著者の場合、この方面で何かの一助となる可能性を期待していたのですが現実はダメでした。(なお、自動演奏してくれる音源をあからさまにわかるような使い方をすることや、わかりやすいオーディオサンプル、権利が不明なオーディオサンプルを使うことが制限されるクライアントワークも多いです。)
では、いわゆる「コンペデモ曲として、仮歌として、などの利用はできないか?」となると、これらにも使えません。そもそも、デモ曲であっても、企業が絡む案件では明確に生成AIの利用は禁止されているのが一般です。
コンペデモ曲の場合、AIの権利関係は未発展かつ未解決状態ということと、各トラックのクリーンなパラデータ保有の問題が壁となっているように思います。そもそも集合値、平均値であるAIを個性的な楽曲を求めるコンペに出すこと自体が思想として合ってないようにも思います。
まあ、唯一残る利用の道は、せいぜい仮歌さんが歌をイメージするための仮仮歌として聞いてもらう、みたいな利用用途くらいかなと思います。オケの場合は、デモ曲をSunoでリアレンジし、さらに人力でそれを打ち込むなりする、みたいな用途が考えられますが、これは時間的にも労力的にも、現実的ではないです。最初からデモ曲を自分で作り込めよ、という話ですから。楽曲のアイデア出しに使えるという意見もあるかもしれませんが、だったら既存曲を検索して聞きに行くほうが有用な気もします。
1つ前の項では、Sunoから1つの楽器を抜き出すことが難しいという技術的な話をしました。もう一方で権利的な問題もあり、Sunoの出力から抜き出したギターは、やはり集合値や平均値から来ているので、たとえSunoが権利OKだと言ったとしても、出所不明の誰かを学習したり、なにかに似ている可能性もあったりと、利用し難い状況なわけです。
まとめると、
・ミキシングとパラエディットができない
・ピンポイントのリテイクに一切応えられない
・法律的な部分や権利的な分の曖昧さ
・尖ったアウトプットではなく平均値から導き出されたもの
こういった点が足かせとなり、クライアントワークにAIは現在も、おそらくもうしばらくも、侵食してくることはないと言えそうです。
世の中には、すでにフリー楽曲や効果音が出回っています。それでなくとも、ストック型サービス業者により、格安で購入できたりします。音に興味のない動画配信者や動画クリエイターは、こういうのを現状使っています。
例えばYoutubeで発信する場合、AI生成した楽曲等はコンテンツIDに登録できません。さらに言えば、誰かに転用されても権利は守れません。一方でフリー楽曲はこの点がクリアされていますので、安心して使えるというわけです。
近年、このフリー音源の界隈にもAI生成楽曲が侵食しようとしてきましたが、結局排除が進んでいます。中には◯◯風の曲みたいな売り込みをしていたりするものも多く、コンテンツIDの仕組みが「似ている曲」として判断してしまい、著作権の異議申し立てをするはめになったり、収益化剥奪がおきたりしていました。結構な収益をあげている動画が、ある日著作権侵害とみなされ、収益ストップになるととても困ります。
現在の世界では、「プロンプト入力やボタン一つで完全自動生成されたAI楽曲」には著作権(著作物性)が発生しません。従って、権利主張も意味をなさないので、リーガルリスクの塊という状況により、仕事では使い物になりません。
まず、メジャーでのコンペ参加について、集まった楽曲がいくら多くとも、採用される楽曲以外にクライアント側はお金を払いません。しかも、採用された楽曲についても、作曲者や編曲者に支払われる額は近年は笑ってしまうくらいのものです。これは日本の話です。したがって、あえてAIによるリスクをとる必要が全くありません。(もちろん高い案件はあるにはあります。)
他にもカラオケを作っている人、コピーを作っている人、作曲でも買い取りだったりなんかする場合、さらに笑ってしまう報酬額の案件も多いです。これはそこそこ名前のあるレーベルからの案件でも当てはまります。人間の仕事自体が安いわけで、仮にも企業としてやっている案件が出せるお金の範疇を考えると、AIを使う理由は見つかりません。これは悲しい現実です。
AI生成のオケをそのまま利用できるかについて考えると、既に完成され出力されたオケがあるだけですから、そこに別途うたった歌をのせても、完全に浮いて聞こえます。
さらに、Sunoが作ったオケは「著作権がありません。(著作者人格権とか演奏権とかですね)」つまり、Youtubeにアップしてある「歌ってみた」と同じような立ち位置にいます。
歌ってみたのオケであっても、人間の手で作れば演奏権はクリアできますし、パラデータがありミックス前の状態で手元に残り、これは「ちゃんとした歌ってみた」になります。Sunoでやっているのは、オーディオリムーバーで元曲からボーカルを抜き出して、そのオケに自分の歌を当てている状況と同じです。
この点から見ても、やはり個人で楽しむ領域を出られていないということがイメージできるかと思います。
使い捨てBGMとしてAI生成楽曲を利用し、大量にSNS広告やマーケティング動画を作る企業もあります。15~30秒程度の楽曲を作っては数日で運用を終了するなどの、使い方をされます。当人たちは使い捨て感覚でやっており、ミックスも多少の変な感じも、音質が悪くても、安く作れるなら全く問題がないと考えていると思うのですが、実はここにも問題はあります。
当人たちは、楽曲の著作権が発生しなくても、その動画で収益をあげているわけではないし、二次利用も構わない、自社製品やサービスを告知できればそちらで稼げるという意識かもしれません。それがAI生成のツール代のみで賄えるならそれに越したことはないのかもしれません。
ですが、実は「著作権がない」=「他人の権利を侵害しない」ではありません。AIが生成した楽曲自体には著作権が発生しなくても、その楽曲が「既存の楽曲(メロディ、コード進行、フレーズ)」と酷似していた場合、元曲の権利者(作曲家やレーベル)から著作権侵害として訴えられるリスクが常に存在します。
AIが意図せず既存曲をほぼそのまま出力してしまう現象(オーバーフィッティング/過学習)が起きた場合、企業側が「AIが勝手に作ったものだ」と主張しても通らず、結果として過失による著作権侵害としてライセンス料や損害賠償、使用料の支払いを命じられてしまいます。それは過去の使用実績に応じた金銭請求が発生するようです。
従って、使い捨てBGMを格安で作れて割がいいと思っているかもしれませんが、実際には「第三者への使用料発生リスクを抱えたまま使っている」のが実態です。もしこの記事を読まれた際にこの事実を知らなかった方は、その企業を見る目を変えたほうがよいかもしれません。当然、きちんとした企業では、この事実を調べていないわけがありません。
AIが権利関係を乗り越える未来はまだ先だと思います。そして、音楽業界でのクリエイターの報酬はすごく安いものがあります。肌感覚で申し訳ないのですが、結論としては、案件の規模が小さくても大きくても、現状AIが入る隙はほとんどないと思います。
しかし、他方に目を向けると、生成AIを使った楽曲生成をするお仕事の求人がたくさん出ていたり、実際にBtoCでの音楽制作でAI生成楽曲を使っていそうな企業があったりと、ピンポイントではそれらしいケースも見つかります。それについては言及することを避けますが、悪質なケースにひっかからないようにしたいところです。